【物語】崖っぷち社長の挑戦 #5

「仕掛けられた罠!最大のピンチ到来」

概要: 競合他社からの巧妙な策略で、未来製作所は製品の欠陥という濡れ衣を着せられる。顧客からの信頼は失墜し、倒産はもはや時間の問題かと思われたが…。

突然のクレーム

その電話は、数少ない取引先の一つである中堅機械メーカー「ミツバ精密」の購買部長からだった。
「山本社長、一体どういうことですか!先日納品していただいた部品に、重大な欠陥が見つかりました!おかげでうちの製品ラインがストップし、大損害です!」
電話口の向こうからは、怒号に近い声が響いてきた。
「け、欠陥ですって!?そんないいえ、そんなはずは…」
健一は言葉を失った。未来製作所の製品は、品質管理には細心の注意を払ってきたはずだ。ありえない。

巧妙な罠

ミツバ精密に急行し、問題の部品を確認すると、確かに通常では考えられないような亀裂が入っていた。しかし、健一にはそれが未来製作所の製造過程で生じたものとは到底思えなかった。
「これは…何かの間違いです!うちの工場でこんなことは…」
しかし、ミツバ精密の担当者は取り付く島もない。
「現にこうして問題が起きているんです!原因を究明し、損害を賠償していただかないと、今後の取引は考えられません!」
数日後、追い打ちをかけるように、他の取引先からも同様のクレームが数件寄せられた。いずれも、最近になって未来製作所と取引を始めたばかりの会社だった。
「おかしい…何かがおかしい…」
健一は直感した。これは単なる不良品の問題ではない。誰かが意図的に未来製作所を貶めようとしているのではないか。

元右腕の影

そんな時、葵が冷静な声で健一に報告してきた。
「社長、今回のクレームが発生した部品のロット番号と、田畑さんが在籍していた時期に製造された予備部品のロット番号が一致するものがいくつかあります」
「何だって!?じゃあ、田畑さんが…?」
「断定はできません。しかし、田畑さんが退職後、彼が移ったとされる『新日本精工』という会社が、最近急速にシェアを伸ばしているという情報も入ってきています。そして、その新日本精工の主な取引先は…ギガ電機です」
葵の言葉に、健一は愕然とした。田畑が未来製作所の技術や顧客情報を持ち出し、新会社でギガ電機の仕事を奪い、さらには未来製作所の評判を失墜させるために不良品の噂を流している…?考えたくもないシナリオだったが、全ての辻褄が合ってしまう。

絶体絶命

未来製作所の信用は地に落ちた。新規の注文は途絶え、既存の取引先からも取引停止の通告が相次ぐ。銀行からの融資も完全にストップし、資金は底をつきかけていた。
「もう…これまでか…」
健一は、がらんとした工場で力なく呟いた。社員たちの顔には絶望の色が浮かんでいる。未来製作所は、まさに風前の灯火だった。
その時、葵が静かに口を開いた。
「まだ、諦めるのは早いです、社長」