「古参社員の反発と社内の亀裂」
概要: 葵の加入で社内に変化が起き始めるが、古参社員たちは彼女のやり方に猛反発。社内の雰囲気は最悪に。健一は板挟みになり、新たな苦悩を抱える。
新しい風と古き壁
結局、健一は佐伯葵を採用することに決めた。彼女の言葉を信じるしかなかったし、何よりもこの閉塞感を打ち破るには、外部からの刺激が必要だと感じたからだ。
葵は入社初日から、その能力を発揮し始めた。工場の業務フローを瞬く間に把握し、無駄なコストの削減案や、新規顧客開拓のための具体的なリストを作成するなど、健一がこれまで思いつきもしなかったような提案を次々と打ち出してきた。その姿は、まさに「できる女」そのものだった。
軋轢の始まり
しかし、葵の急進的な改革は、古参社員たちとの間に軋轢を生んだ。
「社長、あの新しい女のやり方、ちょっと横暴すぎやしませんか?」
休憩時間、作業場の隅で古参の職人たちが健一に詰め寄ってきた。リーダー格の斉藤が、不満そうに口を開く。
「今まで俺たちがやってきたことを、全部否定するようなことばかり言ってくる。こっちは長年の経験があるんだ。素人に何がわかるってんだ!」
他の社員たちも、口々に葵への不満を漏らす。彼らにとって、葵は自分たちの聖域を荒らす闖入者にしか見えないのだ。
「まあまあ、斉藤さん。佐伯さんも会社を良くしようと思ってやってくれているんだ。少し様子を見ようじゃないか」
健一はなだめるが、社員たちの不信感は募るばかりだった。
孤独な改革者
葵自身も、社員たちの反発を感じていないわけではなかった。しかし、彼女は淡々と自分の仕事をこなす。
「山本社長、彼らの気持ちも分かります。変化には痛みが伴うものです。ですが、未来製作所が生き残るためには、この改革は避けて通れません」
応接室で、葵は冷静に健一に告げた。彼女の瞳には、一切の迷いがない。
「…分かっている。だが、もう少し彼らに寄り添うような形で進められないものか」
健一の言葉に、葵は少しだけ表情を曇らせた。
「時間はあまり残されていません。悠長なことを言っている余裕はないはずです」
板挟みの苦悩
健一は、葵の言うことの正しさと、古参社員たちの気持ちの板挟みになって苦しんでいた。どちらの意見も理解できる。しかし、このままでは社内の亀裂は深まるばかりだ。
かつて田畑がいた頃は、彼が上手く社員たちをまとめてくれていた。今、その役割を自分が果たさなければならない。しかし、どうすれば…。
そんなある日、追い打ちをかけるように、一本の電話が鳴った。それは、未来製作所をさらなる窮地に陥れる、悪夢の始まりを告げる電話だった。