#1「突然の裏切りと倒産の危機」
概要: 地方の小さな町工場「未来製作所」。社長の健一は、信頼していた右腕の突然の退職と主力取引先の契約打ち切りで、絶望の淵に立たされる。会社は持つのか?
静かな町の小さな異変
地方都市の片隅に佇む「未来製作所」。シャッター街が広がる商店街を抜けた先、古びた工場の壁には、かすかに「未来」の文字が見える。社長の山本健一は、先代である父からこの小さな町工場を引き継ぎ、不器用ながらも誠実に部品製造を続けてきた。従業員は10名ほど。皆、長年勤めてくれている顔なじみばかりだ。
「おはようございます!」
朝一番、健一が作業場に入ると、いつもと変わらぬ挨拶が飛び交う。しかし、ここ数週間、健一の心は重苦しい雲に覆われていた。最大の取引先である大手電機メーカー「ギガ電機」からの発注が、目に見えて減っていたのだ。
信頼していた右腕の背信
そんな不安が現実のものとなったのは、月曜日の朝だった。
「社長、少しお時間よろしいでしょうか」
声をかけてきたのは、健一が最も信頼し、工場の実務を一手に任せていた工場長の田畑だった。先代からの叩き上げで、健一にとっては兄のような存在だ。
「なんだ、田畑さん。改まって」
応接室に通された健一に、田畑は深々と頭を下げた。
「急な話で申し訳ありません。今月末で、退職させていただきたく…」
「え…?」
健一は耳を疑った。冗談だろう、と乾いた笑みが漏れる。しかし、田畑の表情は真剣そのものだった。
「どういうことだ、田畑さん。何か不満でもあったのか?言ってくれれば…」
「いえ、社長には大変お世話になりました。ただ…自分の力を試したい場所が見つかりまして」
田畑の口調は硬く、多くを語ろうとはしなかった。
追い打ちをかける悪夢
田畑の退職話に動揺する健一に、さらなる追い打ちがかかる。昼過ぎ、ギガ電機の購買担当者から一本の電話が入ったのだ。
「山本社長、いつもお世話になっております。実は、例の部品の件ですが…今月限りで、発注を見送らせていただくことになりまして」
「なっ…!そ、そんな急に!何か問題でも?」
「いえ、社の方針変更でして。長年ありがとうございました」
一方的な通告。健一は受話器を握りしめたまま、呆然と立ち尽くした。売上の7割を占めるギガ電機からの契約打ち切り。そして、工場を支えてきた田畑の退職。まるで、仕組まれたかのようなタイミングだった。
絶望の淵で
夕暮れ時、誰もいなくなった工場で、健一は一人、機械の前に座り込んでいた。油の匂い、金属の擦れる音。父から受け継いだこの場所が、自分の代で終わってしまうのか。従業員たちの顔が次々と浮かんでくる。彼らの生活をどう守ればいいのか。
「くそっ…!」
健一の目から、熱いものがこぼれ落ちた。未来製作所は、創業以来最大の危機を迎えていた。